サイグレアニマン

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好きなもの目録 その411 小津安二郎の浮草

私が今までで観たことがある
昭和(戦後のみ)の邦画で好きな作品を10本選ぶとすれば、

『浮草 - 小津 安二郎』
『秋立ちぬ - 成瀬 巳喜男』
『用心棒 - 黒澤 明』
『しとやかな獣 - 川島 雄三』
大魔神 - 安田 公義』
痴人の愛 - 増村 保造』
犬神家の一族 (1976年) - 市川 崑』
幸福の黄色いハンカチ - 山田 洋次』
太陽を盗んだ男 - 長谷川 和彦』
家族ゲーム - 森田 芳光』
(※一監督一作品。公開年順。
成瀬巳喜男増村保造はどの作品が良いか迷っているので暫定です。
大魔神』は本多猪四郎作品に置き換わるかもしれないので暫定です)

――なんすが、
久しぶりに『浮草』を観返したんすが、やっぱ凄く良い!
最初の船着場の会話の場面だけで、
あぁ、小津安二郎の映画だなぁ。って感慨深い。
世界的に小津安二郎は評価されてるんで、
東京物語』とか観てる人も多いでしょうが、
小津安二郎作品を面白いと感じない人もいるでしょう。
派手なアクションとかどんでん返しのストーリーとか無いし、
特殊な人々の波瀾万丈の人生とかではなく、
普通の人々のちょっとした生活の変化とかの話なんで
そんなに面白くないはずなんすが、
小津安二郎の映画はなんか不思議な魅力があって面白いっす。
若い頃に観て面白く感じなかった人も、
年取ってから観れば面白く感じるかも。

私は小津安二郎の戦後の作品を全部観たことがあるんすが、
その中でも『浮草』が一番好きなんで目録に。


標題:小津安二郎の浮草

分類:映画>邦画

■題名:浮草

監督・脚本:小津 安二郎

脚本:野田 高梧

撮影:宮川 一夫

音楽:斎藤 高順

出演:
中村 鴈治郎 (二代目)
京 マチ子
杉村 春子
川口 浩
若尾 文子
三井 弘次
田中 春男
潮 万太郎
星 ひかる
入江 洋佑
丸井 太郎
浦辺 粂子
島津 雅彦
桜 むつ子
賀原 夏子
野添 ひとみ
高橋 とよ
笠 智衆

発表年:1959年

製作国:日本

評価:S ★★★★★◎以上

■内容・雑記:
※2009年12月に書いた記事に少し修正・加筆しただけっす。

旅芸人の一座の親方・嵐駒十郎(中村鴈治郎)が、
久しぶりに因縁の地にやってくる。
舞台の準備もほどほどに、ちょいと御贔屓さんに挨拶をと外出。
内縁の妻・すみ子(京マチ子)の目を盗んで小料理屋へ。
そこには昔の女・お芳(杉村春子)と親方の息子・清(川口浩)がいるのであった。
息子には、自分は伯父さんということにして
父親であることは内緒にしているのだ。
なぜなら自分の息子には真っ当な堅気の人生を送ってほしいから、
旅芸人なんてヤクザな浮草家業を息子だけには、
息子には苦労させたくなかったのだ。
なにより犬のきぐるみを着せてコントだけはさせたくなかったのだ。
(それは『浮草物語』)
客の入りが悪いのに長逗留、毎日そそくさと何処かに出かける親方に
親方の今の女・すみ子の女の勘が炸裂。
この地に、自分の連合いの
昔の女と息子がいることを知ったすみ子は嫉妬に狂い悪巧みを計画する。
空豆だ、南京豆だと子供の頃言われていた一座の女役者
加代(若尾文子)に、息子の清をちょっと洞穴に
カメラさんと照明さんの後から誘い込めとお金で買収。
まんまと誑し込まれた探検隊長、真面目な好青年が盛りのついた犬に。
その事を知った親方は激怒し、すみ子と絶縁。
弱り目に祟り目、役者の吉之助(三井弘次)が一座の有り金を盗んでドロン。
清と加代が駆け落ちしてドロン。
人生最悪の親方は、一座を解散して一人小料理屋へ。
そんな駒十郎を、お芳は暖かく迎える。
親子三人で仲良く暮らしましょう。あなたが父親だと打ち明けても
息子ももう話がわかる年頃だから大丈夫。
そーっすっかなぁ。もう根無し草の生活にも、つくづく嫌気がさした。
よーしっ、一丁人生やり直すか! と決意したところに
加代と駆け落ちした息子が帰ってくるが……。

私が初めて観た小津映画が『浮草』。
2000年代にGyaOYahoo!動画と統合される前のギャオ)で初めて観て、
私はこの手の映画は一回観れば、もぉいーやって人間なんですが、
なんか気になって、GyaOでまたラインナップされた時観て、
昔のBS2で放送されたのを観て、今回また観て、四、五回観てます。
よーするに好きなんですよ、この映画。
小津作品の中では、あまり評価高くないみたいなんですが良いんすよ、なんか。
大映での撮影なんで、
役者も小津作品にあまり出演しない人とか多いし、
撮影も宮川一夫なんで小津作品の中では異色だと思うけど。

旅芸人の話なんで、当然舞台で大衆演劇があるんですが、
京マチ子演ずる国定忠治とか……、いやぁワザとやってんだと思うんですが、
これがまたヘタ。
お客の掛け声が「女大統領!」とか、
刀抜く場面では「手ぇ切るなっ!」とか(なんか面白いです)。
んで、肝心の主人公・中村鴈治郎が演じる場面が無いんですよ、
映画そのものが舞台の出し物だ。てな演出なのかな。
小津監督って、普通なら見せる対象をワザと見せなかったりするんですよ。
(吉之助が金を持ち逃げする場面とか、
持ち逃げされ大騒ぎする一座の場面とか省略されて、
いきなり衣装や舞台道具を古物商に売る場面になる。など)

大雨の中を、通りを隔てた軒先で駒十郎とすみ子が大喧嘩するシーンで、
GyaOで観た時は、凄い大雨(雨だれ)!スゲーッ! と思ったんですが、
BS2のは、それほどじゃなかったです。フィルムのマスターが違うのか?
最初の灯台を中心に、色々な場所から情景を映し出すなど
宮川一夫の撮影は最高です。
小津映画は、カラーになってからなんか画面上の赤と青が目立つんすよね。

吉之助と矢太蔵(田中春男)と仙太郎(潮万太郎)の男役者三人組が、
揃いも揃ってエロエロおやじで穴兄弟
行く先々で女引っ掛けます。
矢太蔵は床屋・小川軒のあい子(野添ひとみ)にちょっかいを出そうとして
母親(高橋とよ)に撃退されるけど。
しかしそんじょそこらの女の人より美人に思える
加代に手を出さないのが不思議。
同じ職場だと後が面倒だからなのか、それとももー飽きたのか。
清にたいして加代が、私はあなたと一緒になれるような女じゃない。
みたいなこと言っているんで、やっぱ旅役者だし経験豊富なんだろうなぁ。
清は同じ町にいるあい子には興味は無かったのかなぁ。
役とはいえ、川口浩若尾文子とキスしてるのを
交際中の野添ひとみはどー思ってたんだろう?

駒十郎と清が海釣りをする場面で、
『父ありき』で父と息子が釣りをする場面をちょっとだけ連想。


『浮草』は『浮草物語 (1934年)』のリメイクらしいんですが、
『浮草物語』の演出はサッパリしていて、泣けるコメディって感じなんですが、
『浮草』は小津演出が完成した後、円熟した映画って感じで、
間も独特だし、キスシーンがあるのも小津映画では珍しいのでは。
他の作品に比べて(主役がいつもの笠智衆じゃなく、中村鴈治郎だからか)
なんか暴力(DV)的だし、
特殊飲食店みたいな飲み屋の場面とか下品だし。
梅迺家の八重(賀原夏子)は『家政婦は見た!』の所長かと思ったら、
そっちは野村昭子でした。

若い女役者、『浮草』の若尾文子もいいんですが、
『浮草物語』の坪内美子の方が、顔が私の好みだなぁ。
坪内美子は、
銀座の有名カフェの女給をしていたところをスカウトされたみたいですが、
源氏名が孔雀って?
今で言うメイドカフェなのか……。

『浮草物語』の突貫小僧は面白かったなぁ。
いくら金が無いからって、いい大人達が突貫小僧の招き猫の貯金箱から
小銭をチョロまかそうとするなよ。
犬の衣装はションベン臭くて古道具屋(質屋?)に売れないし。

あと最後のタバコの火を点けるシーンがいいですよ。
それで、伸るか反るかの旅に電車(汽車)で行くんですが、
車内のシーンで、子供が映る場面があるんですよ。
最初、『浮草』を観た時は、一座の子役の子も同じ列車に乗ってるのか?
と思ったんですが、
『浮草物語』の同じ場面観て……ひょっとして、
子供と自分の息子(の子供の頃)の姿を重ねた演出なのかなと深読み。

『浮草』は、出演者も豪華で演出が細かいとこまで行き届いていて
こってりとしたカレーうどん
『浮草物語』は、余計なモノを削ぎ落とした
きざんだネギをたっぷりのせた信州そば。