サイグレアニマン

サイケ、プログレ、アニメ、漫画、映画などの覚書

好きなもの目録 その398 成瀬巳喜男の女の中にいる他人とひき逃げ

成瀬巳喜男は天下を取りにいく……かも?

邦画をずぅーっと観てるんすが、
話題作や名作といわれる作品や気になる監督作品や
1960・70年代の古い作品など
メジャー、マイナー問わず色々観てきたんすが、
私が面白いと思える作品に出会う確立が低くなってきて、
もう嵌れる作品や監督は無いかな……と思ってたんすが、
サイケやプログレのマイナーなアルバム(バンドやアーティスト)を
色々漁っても結局、基本というかメジャーなモノに原点回帰するんで、
(マニアックなプログレを聴き漁っても、五大プログレ・バンドに戻るみたいな)
邦画の基本、成瀬巳喜男監督作品でも観ようかなと思ったっす。

――と五年くらい前に書いたんすが、
同じ状況になったんで久しぶりに成瀬巳喜男でも観ようかなと思い、
まだ観ていなかった『銀座化粧』を観てみたっす。
成瀬監督全作品の中での『銀座化粧』の評価ってどーなのか知らないけど、
『銀座化粧』は傑作だとか名作だとかあまり聞かないので
そんなに期待しないで観たんすが私には凄く面白くて、
いつものパターンでもっと早く観とけばよかったなと少し後悔。
子供(子役)の使い方が上手いなぁと思い、
ちょっと『秋立ちぬ』に通じるような気もしないでもないような……どっちやねん。
溝口健二の『祇園の姉妹』『祇園囃子』みたいなのを
銀座を舞台にオシャレにした感じかも……。
銀座の小ママの津路雪子(田中絹代)を姉と慕う女給の京子(香川京子)が
資産家の息子の石川(堀雄二)と結婚の約束をするんすが、
きっと映画の続きは、玉の輿に乗った京子は夜の営みにしか興味のない夫の石川や、
跡継ぎを産むことだけを求め子供が出来たら京子を追い出そうとしている義母にぶち切れ、
飼っている沢山の鶏を絞めて親子丼などの鳥料理にして家を飛び出し(離婚し)
紆余曲折あって占術家になると思う。うそ


成瀬巳喜男監督の映画は、1950年代の作品を中心に代表作と言われる
『めし』『おかあさん』『浮雲』『流れる』
など10作品くらいをそーとー昔に観て
私は『女が階段を上る時』が好きかな――と思ったんすが、
録画してあったり成瀬巳喜男作品は比較的に
何時でも観れるっていう安心感から後回しにして
それ以上追いかけなかったっす。
なんで、成瀬巳喜男作品を観たのが昔で
どんな感じの映画の内容なのかとかまったく憶えていないんすが、
なんかわからないないけど雰囲気が凄いってイメージかな。
で、前から気になっていた『ひき逃げ』を観たら面白くて、
『女の中にいる他人』と公開年を遡って1960年代の
未視聴だった成瀬巳喜男作品を続けて観るくらいに嵌ったっす!
成瀬巳喜男は女性映画の名手で、代表作は『浮雲』と言われてるんすが、
確かに女性映画は素晴らしいと思いますが、
私が1960年代の作品を観て面白いと思ったのが、
異色作の『秋立ちぬ』『女の中にいる他人』『ひき逃げ』だったっす。
『浮雲』が名作だって言われるんで観てみたけど良さがわからず、
女性映画が苦手で成瀬巳喜男作品を忌避している人とかは
上記の3作品を観てみるのもいいかも。
『ひき逃げ』は、成瀬巳喜男っぽくなく評判も良くないみたいなんすが、
私はこの頃、松本清張・原作の映画を観ていて、その流れで観ると、
『黒い画集』シリーズみたいで面白く感じたっす。
『女の中にいる他人』は『黒い画集 (女の中に)ある他人』、
『ひき逃げ』は
『松山善三の寒い空気 家政婦は見た!夫婦の秘密「(ひいて)逃げた」』
って感じで成瀬巳喜男作品では珍しい(のか知らないけど)
サスペンス作品を目録に。


標題:成瀬巳喜男の中にいる他人

分類:映画>邦画>サスペンス

■題名:
女の中にいる他人
ひき逃げ

監督:成瀬 巳喜男

脚本:
井手 俊郎 (※『女の中にいる他人』)
松山 善三 (※『ひき逃げ』)

音楽:
林 光 (※『女の中にいる他人』)
佐藤 勝 (※『ひき逃げ』)

出演:
加東 大介
黒沢 年雄
稲葉 義男
十朱 久雄
佐田 豊
小川 安三
中北 千枝子
浦山 珠美
矢野 陽子
松木 路子

(※下記『女の中にいる他人』)
小林 桂樹
新珠 三千代
長岡 輝子
三橋 達也
若林 映子
草笛 光子
藤木 悠
伊藤 久哉

(※下記『ひき逃げ』)
高峰 秀子
司 葉子
中山 仁
小沢 栄太郎
賀原 夏子
土屋 嘉男
浦辺 粂子
加藤 武
田島 義文
清水 元

発表年:1966年

製作国:日本

評価:
B ★未確定
A ★未確定

■内容・雑記:
ネタバレしてるんで注意っす。

『女の中にいる他人』
出版社に勤める田代勲(小林桂樹)と雅子(新珠三千代)夫婦の一家と、
建築士の杉本隆吉(三橋達也)とさゆり(若林映子)の夫婦は
同じ鎌倉に隣同士で住み、
勲と隆吉は20年来の友人で家族同然の付き合いをしている。
仕事関係で赤坂を訪れた隆吉は勲と偶然出会い、
東京の化粧品会社に勤めているさゆりに電話をかけ一緒に帰ろうとするが
妻は捉まらない。
勲と隆吉は一緒に鎌倉に帰り馴染みのバーに寄ると、
隆吉にさゆりが事故に遭ったと電話があり、
赤坂にあるさゆりの友達の加藤弓子(草笛光子)のアパートに引き返すことに。
そこでさゆりは絞殺されていて
弓子のアパートで何者かと密会していた事実がわかる。
葬式の時に火葬場で勲を見た弓子は、
さゆりと一緒にいた男は勲だと思い隆吉に告げるが
勲のことをよく知っている隆吉には妻を殺したのが勲だとはとても信じられなかった。

原作はエドワード・アタイヤの『細い線』。
田代勲と杉本さゆりが不倫して窒息プレイしてたら
間違ってさゆりが死んだっす。
子供のいない杉本隆吉は田代の子供達をやたら可愛がっているし、
隆吉と田代雅子の関係もなんか怪しいんで、
ひょっとして雅子の産んだ子供達は
実は勲ではなく隆吉の種なんじゃないか、
W不倫やスワッピングじゃないかと思ったんすが、
そんなことなかったっす。
自責の念でノイローゼ状態の勲が妻の雅子に
さゆりと不倫して殺したのは自分だと告白し自首するってきかないのに、
雅子は勲が本当に犯人なのか疑っていたので、
もう一捻りあって、
さゆりが首を絞められ仮死状態になって驚いた勲が現場を去った後に、
さゆりの浮気を疑っていた隆吉が現場に現われ止めを刺したとか、
(隆吉はさゆりを殺したのが勲とわかった後も追求しないし)
勲の後をつけ浮気を知った雅子が止めを刺したとかの
どんでん返しがあるもんだと思ったっす。

『黒い画集 あるサラリーマンの証言』の
石野貞一郎役の小林桂樹だったら知らぬ存ぜぬを決め込むと思うんすが、
田代勲は『密会 - 中平 康』の教授夫人と不倫している大学生みたいに
罪の意識に苛まれて警察に出頭しようとして、(今の生活を守るため)
それを止めさせようと殺してしまう教授夫人みたいなのが雅子。
ちょっとわざとらしいけど光の演出が凄くて、
雷で停電して部屋が暗くなり蝋燭が点いている場面で
勲が妻にさゆりとの不倫を告白し、
勲と雅子の二人が療養先で散策していてトンネルの中に入って暗くなる場面で、
勲が妻にさゆりを殺したことを告白して
トンネル内にトラックが入って来てライトで二人を照らす。とか上手い。


『ひき逃げ』
中華料理店で働いている伴内国子(高峰秀子)は夫を亡くし、
一人息子の武を生きがいにしていた。
ある日、柿沼絹子(司葉子)の運転する車に武が轢かれる。
絹子は不倫相手の小笠原進(中山仁)と一緒だったので
夫にバレるとヤバいとそのまま逃げる。
絹子は夫の柿沼久七郎(小沢栄太郎)に事故のことを相談すると、
柿沼が重役をしている会社でバイクの新車販売を控えている大事な時期で、
重役の妻が交通事故を起こしたんじゃ不味いってんで、
お抱え運転手の菅井清(佐田豊)を身代わりにして出頭させる。
武が亡くなり悲嘆に暮れる国子に代わり
弟の林弘二(黒沢年男)が交渉にあたり賠償金を貰うが
犯人の量刑も軽く国子は自暴自棄になる。
そんな時、酒場で一緒になった兼松久子(浦辺粂子)が
ひき逃げをした車の運転手を目撃していて、それは女だったと言う。
武を殺した犯人が男の菅井ではなく、
車の所有者で女の絹子ではないかと疑った国子は警察に訴えるが、
すでに解決した事件なんで誰も再捜査に乗り気でない。
自分で真犯人を見つけ出し復讐してやるっ!
ってんで家政婦になり柿沼邸に入り込んだ国子は、
亡き息子と同い年の絹子の息子・健一を殺そうとするが……。

『家政婦は見た!』みたいに国子は家政婦紹介所から柿沼邸に派遣され、
専従で住み込んでいる女中のふみ江(賀原夏子)を
『パラサイト 半地下の家族』みたいに陥れて追い出す。
絹子の愛人の小笠原は、自首しない絹子に愛想が尽きたのか、
ラホール……じゃなくてニューヨークへの転勤を決意して、
絹子と小笠原が最後の逢引をしてるのを国子が柿沼にチクる。
絹子は小笠原と別れたショックから息子を道連れに自殺するんすが、
状況から国子が母子殺人の犯人として捕まる。
健一に自分の息子の面影を重ねた国子は愛着が湧いていて
復讐するのを躊躇してたんすが、間が悪く犯人フラグに陥る。
警察の取調官(稲葉義男と加藤武)による執拗な責めにより国子は狂ってしまい、
絹子の無理心中とわかり釈放された後は、
緑のおばさんとして今日も学童の交通安全のため歩道に立つのであった……。
『下町の太陽 - 山田 洋次』でも、
息子を交通事故で亡くした源吉(東野英治郎)が頭がおかしくなって
勝手に交通整理するおっさんになってるんすが、
最愛の子を上級国民に轢き殺されてたいした罪にもならないから
おかしくなっちゃう人がけっこういるのかな。
絹子役の司葉子は、国子の息子をひいて逃げた自責の念というより、
小笠原に捨てられ夫に不倫がバレたのが自殺の引き金っぽいんで、
因果応報により『乱れ雲』では江田由美子役の司葉子の夫が交通事故で死ぬっす。


『女の中にいる他人』『ひき逃げ』共に
サスペンス映画としては粗があるとは思うんすが、
演出が上手いんで細かいことは気にならず見入っちゃう。

ここ最近、成瀬巳喜男の1960年代の映画をずぅーっと観てるんすが、
成瀬巳喜男の映画は空気っていうか水というか
すぅーっと観れるっす。
女性や家庭を描いた映画なんすが、戦争の傷跡や死の影がチラつくっす。
アクセント的に挟まる子供の登場場面が面白くて印象的。
交通事故、ガス自殺、睡眠薬などによる服毒自殺、電車への飛び込み自殺、
転勤などの設定がよく登場して、
キャストも同じ役者がよく登場するんで
作品を続けて観たらどれがどれやら内容がごっちゃになっちゃったっす。
『乱れる』も凄い面白くて、
『ひき逃げ』とか高峰秀子が普通に演技が上手いと思うんすが、
『放浪記 (1962年版)』の困り眉で少し足を引きずり疲れきった林ふみ子役とか感心する。
高峰秀子の敵役はだいたい草笛光子。

溝口健二は「あの人(成瀬巳喜男)のシャシン(映画)は
上手いことは上手いが、いつもキンタマが有りませんね」と評したらしいんすが、
女性映画だからキンタマが無いのは当たり前だろと思ってたんすが、
成瀬巳喜男の映画に出てくる相手役の男は
押し倒せばいいのに後一歩で退く意気地なしのどっちつかずばかりなんで
キンタマが無いって言ったんだなぁ。と思う。