サイグレアニマン

サイケ、プログレ、アニメ、漫画、映画などの覚書

好きなもの目録 その72 吉村公三郎の婚期

2014年12月中頃に書いた駄文の再録っす。

昔(若い頃)の私は、邦画をほとんど観もしないで
洋画よりも下にみていたんですが、(黒澤明作品だけは認めていた)
この頃は、洋画より邦画の方が日本人なので体質に(感性が)合うというか、
共感しやすく面白く感じる作品が多いっす。
サイエンス・フィクションやファンタジー
セットやロケやVFXなどに大金がかかる大作映画ではハリウッドにはかなわないですが、
それ以外では邦画の方が良いかな。
ヨーロッパや日本やインドなどの映画文化がある程度発達した国以外では、
ハリウッド映画に対抗できる作品って、なかなか無いだろうけど、
絶頂期に比べて衰退したとはいえ日本には邦画があるのが幸い。
1980年代以降の邦画は、それまでに比べれば斜陽ですが、
マスメディア(出版社やテレビ局など)とのタイアップで大量に宣伝され知名度のある作品より、
ミニシアター系の知名度のあまりない作品に面白いモノがけっこうあります。
でもまぁ、邦画の絶頂期は1950年代の中頃から1970年代の中頃くらいだと思うので、
その頃の邦画がテレビなどで放送されるのを楽しんでいるんですが、
私がまったく知らない映画で、面白い作品が多くて、当時のレベルの高さに驚かされます。

若い頃に、邦画は面白くない。有名な小津安二郎作品もつまらない。
――などと思っても、それはしょうがないかな。
人生経験があまり無いうちに、小津安二郎成瀬巳喜男なんかの
ホームドラマや愛憎劇観ても面白さがわからない。
(子供が)味覚が発達していないというか、感受性が発達していないみたいな。
それで、黒澤明(だけ)が凄いと思ってたら、
一般人にはそれほど有名ではないけど、
同レベルの監督や作品がたくさんあることに気づき邦画に嵌る。
(知っている有名な昔の漫画家が、手塚治虫藤子不二雄くらいだった人が、
石森章太郎赤塚不二夫つのだじろう永井豪横山光輝
水木しげる白土三平楳図かずおなど、他にたくさん天才がいたことに気がつくみたいに)
黒澤明の他に、小津安二郎成瀬巳喜男溝口健二清水宏、山中貞夫、
マキノ雅弘川島雄三内田吐夢木下惠介などなど名監督がいることを知り、
その作品を観たくなる。
(関係ないっすが、伊藤大輔監督の『弁天小僧』を観たら、
その美術セットや構図が凄くて驚きました)

前置きが長いっすが、そんなわけで
なんの知識(情報)もなく、期待もしないで
吉村公三郎監督の『婚期』を観たら、けっこう面白かったので目録に。


標題:吉村公三郎の婚期

分類:映画>邦画

■題名:婚期

監督:吉村 公三郎

脚本:水木 洋子

撮影監督:宮川 一夫

出演:
京 マチ子
高峰 三枝子
若尾 文子
野添 ひとみ
船越 英二
北林 谷栄

発表年:1961年

製作国:日本

評価:A ★未確定

■内容・雑記:
両親に先立たれた資産家の長兄・船越英二には、
高峰三枝子(長女)と若尾文子(次女)と野添ひとみ(三女)の三姉妹と弟が一人いる。
バツイチの高峰三枝子は自立しているが、
若尾文子野添ひとみ結婚適齢期なのに、まだ嫁に行かない。
若尾文子野添ひとみの二人は家に居づらく結婚に対する焦りもあり、
船越英二の妻の京マチ子を嫌って追い出そうと、小姑が嫁いびり。
ある日、京マチ子のもとへ夫が浮気をしているという手紙が届く。
疑心暗鬼の妻だが、それは義妹達の嫌がらせだった。
しかし、夫には本当に浮気相手がいることがわかり……。

この映画の見所は、なんといっても
婆や役の北林谷栄
その愚痴やぼやきのような台詞が最高。
北林谷栄を知らない人でも、その声は聴いたことがあるでしょ。
となりのトトロ』のカンタのばあちゃんの声優。
『にっぽん昆虫記』や『赤い殺意』なんかの今村昌平作品を初めて観た時に、
リアルで不気味な婆さんが出ているなぁ。とか思ったんですが、
それが北林谷栄! 婆の中の婆!

「この映画は配慮すべき表現・用語が含まれていますが、
作品のオリジナリティを尊重し、そのままで放送します」
って言われても、普通は用語的な問題かなと思うんですが、
この映画では、若尾文子のお見合い相手の歯医者に
身体的な特徴がある(ハゲ)ってので笑いをとってます。
今だと市民団体などから苦情がくるだろうなぁ。
大映映画なんで、松竹映画より少し下品かな。

宮川一夫の撮影(映像)が、『おとうと』と『用心棒』に挟まれた期間みたいなんで外れなし。


■おまけ

吉村公三郎監督作品は、他に『安城家の舞踏会』『誘惑』『嫉妬』
『偽れる盛装』『若い人たち』『夜の蝶』『越前竹人形』などを観たことあるかな。
数年前に観た作品の内容はもう忘れているけど……。
『夜の蝶』は銀座のママ同士のライバル対決が描かれるんすが、
最後になぜかカーチェイスがあって特撮なんすよ。
特撮監督の築地米三郎が手掛けたみたいなんすが、なんか出来が良くて驚いたっす。
越前竹人形』で「色は黒いが南洋じゃ美人♪」って
「酋長の娘」っぽいレコードがかかってるんすが、あとの歌詞が違うんすよね……何だろ?

安城家の舞踏会』
安城家の武道会は、
殿様 VS 借金取り
長男 VS メイド
長女 VS 下僕の運転手
次女 VS 安城家の古い格式
の対決が見所……なのか。

戦後、華族制度が廃止されて貧乏になり、
大邸宅を抵当に取られている安城家。
昔、お抱え運転手だった男が出世して安城邸を買い取ろうと申し出るんすが、
「このお屋敷も、見た目は綺麗だけれど、
屋台骨は腐ってますよ――」みたいなことを言って、
家主が気分を害するんですが、お屋敷が海辺に建っていて
潮風に曝されていれば腐るわなぁ。と思いました。
(監督や脚本家は、
先祖は四十数万石の大名だった一族が落ちぶれたってのを、
格式ある家が、破産寸前ってのを言いたいんだろうけど)

「私を玩具みたいに弄んで、捨てるのねっ!」みたいな台詞とか、
メロドラマ、ソープオペラの王道って感じの物語で、
昔から人間関係、男女関係の問題は変わらないなぁ。と
キネマ旬報の日本映画ベスト・ワンだけあって、面白かったっす。
長女のタカピーぶりと、ドレスの背中が見所かな。


『婚期』も面白かったんですが、
それほど有名ではないと思われる
ホームドラマやメロドラマっぽい昔の邦画に面白い作品がけっこうあります。
木下惠介の『春の夢』とか、中平康の『結婚相談』とか面白いし。