サイグレアニマン

サイケ、プログレ、アニメ、漫画、映画などの覚書

好きなもの目録 その322 今井正の仇討

最近、初めて観た映画が
『その場所に女ありて - 鈴木 英夫』
『サマー・ソルジャー - 勅使河原 宏』
『妖婆 - 今井 正』
とかなんすが……大丈夫かな?

『その場所に女ありて』は、
日本の1960年代の女性社員ってお茶汲みや雑用をして
結婚までの腰掛けってイメージだったんすが、
この映画の女性社員達は広告代理店ってこともあるのか
バリバリのキャリアウーマンなんで驚く。
イタリア映画っぽさをなんとなく感じるかな。

『サマー・ソルジャー』は、
軍を脱走した米兵が支援者の手引きなどで日本中を逃亡する話なんすが、
脱走米兵が身勝手だし映像にあまり面白味がないんで普通かな。
見所は小沢昭一黒柳徹子の夫妻の家に身を寄せた脱走米兵が
黒柳徹子に欲情して襲いかかる場面。
ドライブイン加藤武のトラック運転手が遣り手婆に女の手配を頼むのを観て、
『トラック野郎』の桃さんがやたらドライブインに行って、
ウェイトレスに惚れたり便所に行くのは売春の暗喩なんじゃないかと邪推する。うそ

んで、今井正監督の『妖婆』は、
大正時代に金山を持つ裕福な家の一人娘のお島(京マチ子)が結婚することになるんすが、
姉妹のように育った年上の従姉妹・さわ(稲野和子)が
何もかも自分より上のお島に嫉妬して
蝦蟇が御神体の婆裟羅大神に願い
お島と新郎の新三(江原真二郎)を破局させ奪い取る。
呪詛を祓うため行者(三国連太郎)のもとに行くがお島は陵辱されてしまう。
関東大震災により両親や財産を失ったお島は避難中に知り合った
井原(児玉清)と愛し合い妊娠するが、井原には妻と娘がおり、
死んだ井原の娘がお島に取り憑いて体調を崩し子を堕ろす。
時が流れて、評判の仕立て屋になったお島のもとにさわが訪ねてくる。
それからお島の体の具合がどんどん悪くなっていくのであった……。
いるよね、仲の良い、親友のふりして近づいて嵌めるヤツ。
大女優の京マチ子が主演で、名監督の今井正で、撮影が宮川一夫という豪華布陣の
オカルト、ホラー映画で京マチ子がヌードにもなってるんすが……なんとも。
男はつらいよ 寅次郎純情詩集』で京マチ子がマドンナをやった同年にこんな映画が……。
宮川一夫なんで映像は良いんすよ不気味で印象に残る場面もあるし。
演出が1970年代の洋画のオカルト、ホラー作品と比べると古臭くて、
1960年代の大映の怪談、お化け作品って感じ。
前に
『異母兄弟 - 家城 巳代治』『越後つついし親不知 - 今井 正』とか
救いの無い重い邦画を観てた時に書いた駄文が下記なんすが、
三國連太郎は名優って言われるんすが、
私は三國連太郎の演技が上手い(凄い)と思ったことがなかったんすが、
『異母兄弟』での戦前の家父長制の悪い部分の権化みたいな鬼頭範太郎や、
『越後つついし親不知』での狡猾で欲望に忠実な佐分権助とかの
嫌な男の演技は凄いかな。
『異母兄弟』での三國連太郎の小鉢の豆?の喰い方が、
美味しんぼ - 森崎 東』での煮豆の喰い方と同じで
昔から演技変わってないなぁ。と思ったり、
三國連太郎佐藤浩市は親子でそんなに似てると思ったことがなかったんすが、
『旅の重さ - 斎藤 耕一』の三國連太郎を観て、佐藤浩市っぽいと思ったり、
八甲田山 - 森谷 司郎』の山田正太郎少佐は家では
鬼頭範太郎みたいだったんだろうなぁ。と思う。
あと『異母兄弟』で中村嘉葎雄がこんな昔から映画に出てたんだ……と思ったっす。
同年公開の『喜びも悲しみも幾歳月 - 木下 惠介』は観たことあるんすが、
そーとー昔で、出演している中村嘉葎雄のことをよく知らなかったから。
――で、『妖婆』での三国連太郎の行者の演技も凄いっすよ。
北林谷栄の産婆から貰った観音様の数珠の方が婆裟羅大神より強い。
『その場所に女ありて』で
矢田律子(司葉子)の姉・実代(森光子)の年下のダメ亭主役が児玉清なんすが、
『妖婆』では正反対の誠実で頼りになる役をやってる。
なんか『妖婆』は『妖僧 - 衣笠 貞之助』とイメージが被るかな、
名優、名監督のちょっと変な晩年の作品って感じ。
関係ないけど、ちょっと前に「東映シアターオンライン」で
『サラリーマン一心太助 - 沢島 忠』を観たんすが、
中村嘉葎雄の兄・中村錦之助三田佳子が出演している
今井正監督の『仇討』を下記にお送りいたします。


今井正監督は名匠として名高いんすが、
私は作品を9本観たくらいかな。
『真昼の暗黒』『キクとイサム』『武士道残酷物語』
『越後つついし親不知』『不信のとき
とかが面白かったかな、詳しく憶えてないのですんません……。
『仇討』が代表作になるのか知りませんが、
コレが案外っていうか凄い面白いので目録に。


標題:今井正の仇討

分類:映画>邦画>時代劇

■題名:仇討

監督:今井 正

脚本:橋本 忍

音楽:黛 敏郎

出演:
中村 錦之助萬屋 錦之介)
田村 高廣
神山 繁
丹波 哲郎
石立 鉄男
加藤 嘉
三津田 健
三島 雅夫
田中 春男
信 欣三
進藤 英太郎
小沢 昭一
山本 麟一
常田 富士男
三田 佳子
佐々木 愛 (※1943年生まれの女優)

発表年:1964年

製作国:日本

評価:A ★★★★☆

■内容・雑記:
部屋住みで無役の江崎新八(中村錦之助)は、
曲がった事が大嫌いな直情型の性格。
新八が馬廻り役の武具手入れを手伝っていると、
上級武士の奥野孫太夫神山繁)が
槍の穂が曇っていると難癖をつけてるのを聞き、
ちょっとそれは言いすぎなんじゃね? と新八が食って掛かる。
よーし、こーなりゃ果し合いだっ! と勢いにまかせて二人は決闘。
残されていた果たし状を読んだ新八の兄・重兵衛(田村高廣)が河原にかけつけると
息があがって興奮状態の弟の新八と死体が一つ。
私闘による死亡では、家督が没収にもなりかねないので
奥野孫太夫の家では、長男を病死ということにして
次男に家督を相続できるように工作。
新八は乱心ということにして、城下外の山寺に幽閉という
波風を立てない事なかれ主義の藩上層部の決定。
これを聞いて新八は、
「おいらキチガイじゃねぇ! 武士としての立派な決闘だ!
これじゃぁ死んだ奥野孫太夫も浮かばれねぇ」とおかんむり。
家(兄)の立場もあるし嫌々寺に身を潜めていると、
妹のみち(佐々木愛)と許婚のりつ(三田佳子)が尋ねてくる。
寺の住職・光悦(進藤英太郎)の許婚と二人で逃げろとの提案も
おとなしくしていればまた城下に帰れる日もくると新八は却下。
奥野の家の次男・主馬(丹波哲郎)は剣の使い手で、
最初長男の仇討ちをすべきだと強く主張していたが、
伯父の伝兵衛(加藤嘉)にお家大事で押し通され
憤懣やるかたないなかお城勤め。
同僚の陰口にストレスが溜まっていたが、
「そーじゃ、そーじゃ、おーそーじゃ!
乱心者を切り捨てたとて、罪にはならん、なにせキチガイだしィ」
と自分に都合の良い論理を組み立て新八を討ちに寺に向かう。
寺での生活にも慣れ、乱心者の汚名にも我慢して
安定した心持だった新八だが、
主馬が自分を討ちに来るとの報せに精神が崩壊していく。
寺近くの農民に、主馬が来たら
近道を通っていち早くオレに知らせろ。と下知。
新八汚ねぇーな、待ち伏せして不意打ちすんのかよ、
いくら相手が自分より腕が上だからって……
と思ったら、寺に来る途中の道で名乗り出て真っ向勝負!
あぁそうか、あるよね、誰かが来るとか、宅配便が来るとか、
前もってわかっていると、なんかソワソワしちゃって、
いつ来る、いつ来るって心が落ち着かなくて、
もういっそのこと、こっちから出かけちゃうか。みたいな小心者の行動。
剣の達人主馬との勝負は、幸運にも(幸運なのか?)勝ったのだが、
長男、次男と二人の家督を失った奥野家の面目は立たぬので、
とうとう三男(主導者は伯父)が仇討ちの許しを藩に請う。
まだどこのわかめにもなっていない三男・辰之助石立鉄男)は、
同じ部屋住みの新八を慕っていた気弱な青年。
なんの因果か、
弟のように可愛がっていた辰之助に仇討ちを挑まれるまで
追い詰められた新八の明日はどっちだ!

すぐ頭に血が上る、怒りっぽいけど武士道に真摯な新八が、
まわり(武士社会)から乱心者とされ、
だんだん本当に精神がおかしくなっていくんだけど、
達観して辰之助に素直に討たれようってところまで心が整ったのに、
決闘場での周りからのあまりの仕打ちに
本当に乱心してバーサーカーになるっす。
狂戦士状態で誰も敵わない新八の怒りが藩上層部に向かったのを止めるため
最初に新八を突き刺したのが弟思いの兄だったみたいっす。
その兄も……。

何も無い野原から決闘場が徐々に出来上がっていく様子や、
果し合いの作法や、見物人などなど、
メインの新八の物語と同じくらい、
まわりの社会、武士の体面などの、雁字搦めの逃げ場の無い社会構造。
関係ない庶民からみれば仇討ちなぞ所詮見世物。
みたいな批判が裏にあるなぁ。

『武士道残酷物語』が武家の系譜のオムニバス(短編の連なり)だったのを
長編に発展させたのが『仇討』かな。
切腹 - 小林 正樹』でも丹波哲郎の殺陣が絵になっていたんですが、
昔の時代劇はチャンバラ場面の迫力が半端ないっす。
今の邦画では出来ないロストテクノロジーになっちゃってるんだろうなぁ。殺陣
安易にCGとかに頼ると、失うものも大きいっす。
お経をバックにエロい場面があるんすが、
大殺陣 - 工藤 栄一』にもあり、時代劇には付き物なのか?
パブロフの犬みたいに、
お経を聞いただけでエロいこと考えちゃう体になっちゃうっす。

デパートの屋上で許婚のりつが、
「このまま二人でどこか誰も知らない遠くまで逃げちゃおうか」
って提案するんすが、新八の、
「それは、無理だぉ……」
って拒否する場面が印象に残ったなぁ。うそ
それは『人狼 JIN-ROH - 沖浦 啓之』っす。