数寄なモノ目次録

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好きなもの目録 その26 川島雄三のしとやかな獣

だいぶ前に、川島雄三が監督で若尾文子が出演している
『女は二度生まれる』
『雁の寺』
『しとやかな獣』
を視聴したんですが、『しとやかな獣』に衝撃を受けたんで。


標題:川島雄三のしとやかな獣

分類:映画>邦画

■題名:しとやかな獣

監督:川島 雄三

脚本:新藤 兼人

出演:
若尾 文子
船越 英二
伊藤 雄之助
山岡 久乃
浜田 ゆう子
川畑 愛光
小沢 昭一
山茶花
ミヤコ 蝶々

発表年:1962年

製作国:日本

評価:S ★★★★★○

■内容・雑記:
川島雄三監督、若尾文子出演の三本の映画観たんですけど、
面白さは、
『しとやかな獣』>『女は二度生まれる』>『雁の寺』
かなぁ。

すみません……甘く見てました、川島雄三を。
よく代表作と言われる、『幕末太陽傳』や『洲崎パラダイス赤信号』観て、
確かに名作だけど、小津安二郎成瀬巳喜男溝口健二
黒澤明には及ばないな、川島雄三は。
――なんて考えていた自分がいかに愚かだったか……。
女優・若尾文子×監督・川島雄三の特集だっていうから、
どーせメロドラマだろぅ。と何の情報もなく観たんですが
『しとやかな獣』
シュール……、シュールでブラック・コメディ。
久しぶりに凄い日本映画観ちゃったなぁ。
なんか、森田芳光監督の『家族ゲーム』を、初めて観た時の感覚に似ているなぁ。
大映映画なんですが、なんかATG映画を観ているような。
脚本が新藤兼人だし。
元軍人の父、夫に尽くす母、作家の愛人の姉、
家計を助けるため大学を中退して働く弟
の四人家族と、その関係者の話なんですが、
この家族、揃いも揃って自分の欲望に正直というか、
人を騙して金を巻き上げるのに、良心の呵責ってものが全く無い詐欺一家。
(主に横領、たかり、借金の踏み倒し)
赤塚不二夫の漫画に『いじわる一家』ってあったけど、
この家族は、口先三寸一家というか
他人の物は自分の物、自分の物は当然自分の物一家というか、
凄まじく生きるのに汚い(逞しい)家族です。

物語は、5階建てのエレベーターの無いマンションを舞台に、
一見、どこにでもいる普通の四人家族の日常を描く。
お客さんが来るらしく、いそいそと部屋片付けをする夫婦。
しかし何か変。普通、他人が来るといえば、
見栄を張って上品に金持ち風に見えるように、
部屋の模様替えをするもんだと思うんですが、この夫婦は逆。
部屋を貧乏に、みすぼらしく模様替え。
そこに訪ねてくるのは、息子の勤めている芸能プロダクションの社長と、
会計係の美貌子連れ未亡人(若尾文子)と、ピノサク(小沢昭一)。
なんと!息子が会社の金を横領したというではないか。
ウチの息子に限って、そのような人の道に反したことはしない
なにかの間違えだ。と否定しながら、頭を下げる父母。
なんとかその場は誤魔化し、三人を追い返すと
入れ代わりに息子が帰宅。
普通ここで、父親が息子に激怒するもんだと思っていると……。
人気作家のもとに、2号さんとして囲われている姉が帰ってくる。
喧嘩をしたらしい。いい金づるなんだが、2号は2号。
新しい男を探すさ。と家族会議。
そこに未練のある作家が、姉を追いかけて訪問。
入れ替わり立ち代り、美女会計が息子を訪ねてくる。
別れ話をもちだされ、怒り狂う息子。
横領した金の半分を、彼女に貢いでいたのだ。
彼女はその金で建てた旅館を経営し、子供と暮らしてゆくというのだ。
彼女は息子ばかりか、芸能プロの社長や
税務署員(船越英二)とも関係していたのだ。一家の上をいく女。
はたして、この一家に明日はあるのか?

テレビやラジオを点ければ、なぜか能や歌舞伎のような音楽が流れる。
その音楽に合わせて、狂ったようにゴーゴーみたいなダンスを踊る姉弟
夕焼けで赤い部屋の中で、汗だくになり一心不乱。
……どこかがオカシイ、狂ってる。
始まりからして、夫婦の部屋片付けを窓の外から覗くような構図に
この音楽(雅楽?)が鳴り響き、
なんか変だぞ、この映画とは少しは思ったんですが、ここまで変だとは……。

場面は、ほとんどマンションの一室でのみ物語が展開。
あと部屋前の通路と階段くらい。
この階段が異次元というかシュールで、白い壁に囲われて長くなったり、
知人同士がすれ違っても気づかなかったり。
上り・下りを人生に例えているのか。

マンションの一室だけというと、画面的に退屈しそうに思えますが、
これが大違い!
部屋という部屋、浴室やトイレまで、あらゆる角度で映します。
ある時は天井裏から、またある時は床下から……。(冷蔵庫の中から)
神の視点のように、人々の愚かな行動を観察。

一番まともそうな母(山岡久乃)は、
夫がどんな犯罪や不道徳なことを言っても全肯定。
しかし……最後に、外の騒ぎをベランダから見ていた山岡久乃
振り返って夫達を見つめる表情にはドキッとします。
私達みたいに、しとやかに世間を渡っていける人間(猛獣)もいれば、
犠牲(餌になる)になる人間もいるのだと。

金髪のエセ外人・ピノサク役で、小沢昭一が怪演してます。
息子に踏み倒された17万円のギャラを取り返そうと、
社長と一緒に訪問するんですが、
「ジュゥナナマンエェ~ンッ!」
と片言の日本語なんですが、生粋の日本人。
私は、小沢昭一というと、ラジオの『小沢昭一的こころ』しか知らなくて、
あと昔の日本の伝統芸を、研究・紹介する人かと思ってました。
でも、『幕末太陽傳』の貸本屋金造や、
『洲崎パラダイス赤信号』のそば屋の店員三吉、
『わが町』のしょっちゅう銭湯に行ってるバカ息子の演技をみて、
そのコミカルでひょうひょうとした感じが最高で好きになりました。
今村昌平監督の『エロ事師たちより 人類学入門』とか
増村保造監督の『痴人の愛』では、
とうとう主役で最高の演技してました。

「雨漏りのするバラックでの、あの生活は二度と御免だ!
アレは人間のする生活じゃない……」


■題名:女は二度生まれる

監督:川島 雄三

出演:
若尾 文子
藤巻 潤
山茶花
フランキー 堺
山岡 久乃
山村 聡
江波 杏子

発表年:1961年

製作国:日本

評価:A ★★★★○

■雑記:
小えん(若尾文子)に恋心を抱いていた学生の牧純一郎(藤巻潤)が
社会人になり取引先の外人に小えんを宛がおうとするのが残酷。
小えんがお妾(二号)さんとして住んでいるアパートの住人の
女学生・里子(江波杏子)がペッティングの説明をしてくれる。
今は廃止になった上高地線の終点・島々駅を最後に訪れる。

『女は二度生まれる』も、そうなんすが、
溝口健二監督の『祇園囃子』『赤線地帯』とか、
成瀬巳喜男監督の『流れる』
吉村公三郎監督の『偽れる盛装』
なんかの風俗、売春婦、芸者や置屋を舞台にした映画って
昔は普通だったのかな。
今だと、『嫌われ松子の一生』みたいな。


■題名:雁の寺

監督:川島 雄三

出演:
若尾 文子
木村 功
三島 雅夫
山茶花
中村 鴈治郎
菅井 きん
西村 晃
小沢 昭一

発表年:1962年

製作国:日本

評価:A ★★★★△

■内容・雑記:
『雁の寺』には、なんか不気味なモノを感じたなぁ。
人間の業というか、生きることの不条理さというか。
登場人物の感情が性格がわかるようで、よくわからないんすよ。
慈念(高見國一)の担任教師・宇田竺道(木村功)が、
何を考えているのかサッパリわからない。
すべてを悟って、慈念の行動も薄々勘付いているのか?
慈念は慈念で、せっかく憧れの、
まだ見ぬ母を投影した里子(若尾文子)と
二人だけで生活できると夢見ていたのが、
宇田竺道が代わりの住職で来るとわかると、
急に自分の仕出かしたことの重大さに気づき、
慈海(三島雅夫)の後を追う(涅槃に行くってことか?)とか言い出して、寺を出るし。
何を考えているか、わからない人間ほど不気味なモノはないですよ。
慈念が里子に話す、鳶の話……
半殺しの蛇や蟲などを、木の上の暗い洞に溜めていて
その洞の中ではグツグツと負のエネルギー・ルサンチマンが醗酵している
――みたいな。蠱毒かよっ!
『雁の寺』は、何度も観れば名作・傑作に思えるような
なにかがあるなぁ。なんか引っかかるんですよ。

和尚さんが愛人を囲って、横恋慕した小僧が和尚を殺すみたいなのが
『白蛇抄 - 伊藤 俊也』のストーリーにちょっと似てるかな。


川島雄三監督作品は、テンポがいいなぁ。
喜劇映画が得意だったってのに関係するのか。