サイグレアニマン

サイケ、プログレ、アニメ、漫画、映画などの覚書

好きなもの目録 その258 ジョージ秋山のザ・ムーン

五年以上前に書いた記事の再録です。
ジョージ秋山の『ザ・ムーン』を読み返してないのであしからず。
デロリンマン 1970・黒船編』にザ・ムーンのプロトタイプが登場するみたいです。


三大奇書とかあるじゃないっすか、
夢野久作の『ドグラ・マグラ』と小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』と
他一作品(中井英夫の『虚無への供物』)の。
ドグラ・マグラ』と『黒死館殺人事件』は1935年の発表なんで、
江戸川乱歩が1935年頃に長編の傑作を発表しているか、
他の作家で両作品に匹敵する(『孤島の鬼』や『家畜人ヤプー』みたいな)
作品を1935年頃に発表していれば、
それを入れて三大奇書ってのが収まりがいいと思うんすが、そう上手くいかず。

んで、漫画で奇書ってあるかな? って考えると、
つげ義春の「ねじ式」「ゲンセンカン主人」、
楳図かずおの『漂流教室』、永井豪の『デビルマン』、
諸星大二郎の『暗黒神話』、大友克洋の『童夢』などかなと思って……。
楳図かずおの『漂流教室』と永井豪の『デビルマン』は長編で
作品内容からいっても奇書に相応しいし、1972年から連載と発表時期も被っているので、
他に1972年頃の作品で『漂流教室』と『デビルマン』に匹敵する作品あるかなって考えたら、
ちょっと落ちるけど、ジョージ秋山の『ザ・ムーン』があったな……と。
私が思う(私より前に思いついた人がいるだろうけど)三大漫画奇書は、
楳図かずおの『漂流教室』と永井豪の『デビルマン』、
そして、ジョージ秋山の『ザ・ムーン』ってことになったので目録に。

私がジョージ秋山を知ったのは、
小学校低学年の頃にクラスメイトが持っていた『パットマンX』でかな。
その後、『週刊少年チャンピオン』を読むようになって
『花のよたろう』が載っていたのでちょろっと読むんすが面白さがわからず……。
週刊少年ジャンプ』に載っていた『シャカの息子』『海人ゴンズイ』とかも
ちょろっとだけ読んだと思うんすが、なんかジョージ秋山の漫画が肌に合わず避けてたっす。
ジョージ秋山の漫画は手抜き(無駄な大ゴマやアップを多用する)に思えて……。
話もこけおどしというか、不道徳でショッキングな設定で
話題性を狙っただけに思えて好きじゃなかったんすが、
私が影響を受けたサークルの先輩達が、
1970年代や1980年代の『月刊漫画ガロ』に載っているような変な漫画や
楳図かずおジョージ秋山の漫画を集めているのを見て、
先輩達が認めている(好きな)ジョージ秋山って凄いのかも?
とサークルの先輩達からの間接的な影響で
私もジョージ秋山の漫画を読んでみよう。となったっす。
んで、『くどき屋ジョー』とか読んで、そのぶっ飛んだ内容に驚いて、
ジョージ秋山って凄いんだな……と、今では認めているんすが、
私の好みの漫画とは違うっす。
(私の好みの漫画ではないけど、作品自体は漫画史に残る問題作が多々あると思う)


標題:ジョージ秋山のザ・ムーン

分類:漫画>少年漫画>SF

■題名:ザ・ムーン

作者:ジョージ 秋山

発表年:1972年~1973年

製作国:日本

評価:A ★未確定

■内容・雑記:
サンスウ、カテイカ、シャカイ、その他(学校の教科などに関係する名前)の
合わせて九人の少年少女は、
謎の大富豪・魔魔男爵からザ・ムーン(巨大ロボット)という力(正義)をプレゼントされる。
ザ・ムーンは九人の少年少女達の脳波が揃わないと動かない。
ザ・ムーンの力を恐れ、利用または排除しようとする
連合正義軍(ビッグ魔法団)、高原集落の村民、春秋伯爵、木の国屋商衛門、
などと対峙するサンスウ達少年少女の苦闘。

「連合正義軍の平和」
ザ・ムーンを与えられた少年達は生首の乗った地獄船を目撃する。
生首の顔に見覚えがあったカテイカが犯人のビッグ魔法団に攫われる。
ビッグ魔法団を操るのは、未来さまという連合正義軍の偉大なる指導者。
日本に水爆があることを写した秘密のマイクロフィルムを偶然受け取ったサンスウは、
A国の秘密諜報員やビッグ魔法団の残党や連合正義軍(流先輩)に狙われる。
何十億という人間に永遠の平和を与えるため、
水爆によって何十万人という尊い生命を奪おうとする連合正義軍に立ち向かうサンスウ達。
しかし、ザ・ムーンの前に巨大な猿のサイボーグが立ちはだかる。
八月六日、広島に原爆が落ちた日と同じ日に
四国に水爆を落とそうとする連合正義軍を止めることができるのか!

「湖底の黄金」
サンスウのクラスに踊次郎という不気味な転校生が来る。
サンスウ達の周りで額に五寸釘を打ち込まれた死体(偽装)が頻繁に現われるが、
それは踊がサンスウ達の気を引く(ザ・ムーンを思い通りに動かす)ための行動だった。
踊の故郷のダム底に埋蔵されている黄金をザ・ムーンに掘り起こさせようというのだ。
わざわざ台風の中にザ・ムーンとサンスウ達を誘き寄せなくても、
素直に頼めば黄金を掘り起こしてくれると思うんすが、
世間の目に留まって国のものになるのが嫌だったのかな……。
『ザ・ムーン』の中では、他の話に比べてしょぼい。

「春秋伯爵のユートピア
春秋伯爵は老人のユートピアを作る資金を魔魔男爵から借りようとするが断られる。
ユートピア資金を集めるため鉄人間を使い現金輸送車や宝石店を襲う春秋伯爵。
シャカイが催眠術で鉄人間にされ、カテイカも攫われ、
怪しい春秋伯爵の屋敷に忍び込むサンスウだったが、
そこで見たのは、裸の美女達に囲まれた春秋伯爵と巨大なロボット(ファーブル)だった。
春秋伯爵はファーブルを使い東京中を混乱に落とし、その隙に金銀財宝をいただく計画だ。
空中を飛ぶファーブルに対し、
サンスウ達は般若心経を唱えサイコキネスでザ・ムーンを空中に浮かして対抗するが、
大量のファーブルと老人が中に入っている鉄人間が襲ってきてピンチ。
ムーンはファーブルに持ち去られ、サンスウ達は鉄人間達から逃れるのがやっとだった。
奪われたムーンが春秋伯爵の脳波で動きサンスウを襲うが、
九人の少年達の脳波が勝ちムーンを奪い返すと、襲ってきたファーブルを全滅させる。
最後はサンスウを殺してムーンを動かないようにしようとする春秋伯爵が
なぜか突然、ムーンに正義の神(大仏)を見て負けを認める。
大量のファーブルや鉄人間を作る資金をユートピアに回せよ春秋伯爵。
鉄人間や裸の女性が泳ぐ水族館とか、なんか江戸川乱歩っぽい。

「白原に死す」
突如、巨大で真っ黒な円盤が上空に現われる。
身近な生活用品が突然消え、そしてサンスウとカテイカも消える。
残されたシャカイ達は宇宙人のせいだと訴えるが大人(刑事達)は取り合わない。
シャカイ達は犬に似たケンネル星人を保護するが
堅気じゃない男が連れ去り日本一の商人・木の国屋商衛門に売ってしまう。
木の国屋はケンネル星人を口をきく犬としての興行や、
人質(犬質?)にしてケンネル星人の代表(セントバーナー提督)
との取引(商売)に使おうというのだ。
行方不明になっていたサンスウが現われ
首相にケンネル星人が平和的な友好を求めていることを告げるが、
木の国屋が捕らえていたケンネル星人を殺し邪魔をする。
ケンネル星人から黒龍号を手に入れた木の国屋は、
日本の指導者になろうと黒龍号で破壊活動。
人間同士が争っている内にケンネル星人は、
地球が滅びる時、人間がどうするのか見極めるために
人も動物も全滅させるカビを発生させる機械(マシーン)を設置する。
サンスウ達九人はカビの機械を止めるため
(チョコレートを分け合い、サンスウとカテイカは仮の結婚をし)
カビで空気が汚染された中を進むのであったが……。

ネタバレっすが、最後は
サンスウ達九人が倒れ動かないムーンの前に
防カビ対策をした鉄人間に入った春秋伯爵が現われて
ムーンを一人で動かしてカビの機械を止めて地球は救われたっす。
そして春秋伯爵のユートピアを作って大団円っす……当然うそっす。

散々引っ掻き回した木の国屋は途中でフェードアウトするし、
最後に魔魔男爵や糞虫が登場することもなく、
大人は何をしているのか、地球の命運を子供達に任せっぱなしで終わる。


<登場人物>
サンスウ:
ちょっとだけ、高橋葉介とか、つのだじろうの『恐怖新聞』の鬼形礼とか、
横山光輝の『バビル2世』のバビル2世っぽい容姿と画風。
(詰襟の学生服というのが、当時の典型的な主人公の服装なのかな)
少年少女達のリーダーで正義感溢れる頭脳明晰な主人公。
山の手小学校の高学年かと思ったら山の手中学校の一、二年生?の少年。
カテイカのことが好き。タイソウは弟。

カテイカ
グループの紅一点。オタサーの姫みたいな感じなのか、
ドラえもん』のしずかちゃんとかもそうなんですが、
女子グループに入らないで男子グループに混ざっているのは、
他の女子に嫌われているとか?うそ
鬼刑事(あだ名)部長の娘で父子家庭。
家事(料理・裁縫など)や小さい子供の面倒を見るとかの家庭的な面より、
性的な面(恋愛や裸など)の方が目立つのでホケンって名前の方が合ってるような。
サンスウのことが好きみたいだけど、かっこいい流先輩に浮気する尻軽女。

シャカイ:
いつも髪の毛で片目が隠れている副リーダー・ポジションの少年。
サンスウ、カテイカと同じクラスだがいつも私服(学生服を着ていない)。
最初、サンスウのライバルでグループ内で対立とかするのかと思ったけど、
サンスウにだいたい追従・補助している。
仲間内のこと(病気など)より人類全体のことを優先するサンスウを諌める役割。

ズコウ、リカ兄弟、タイソウ、オンガク、ヨウチエン:
ザ・ムーンを動かすのに必要なその他大勢。ほとんど足手まとい。
名前に関係する能力を発揮する場面はあまり無い。
(春秋伯爵の屋敷のカラクリを暴くのに、
リカ兄弟が図面を引いたりズコウが模型を作ったりするくらい)
ズコウは小太りで工作が得意な小学校高学年くらいの少年で、
死ぬのが怖くてみんなを見捨てようとしたことがある。
リカ兄弟は眼鏡の双子で科学的知識が抜群。
タイソウはサンスウの弟。
オンガクとヨウチエンも兄弟。

魔魔男爵:
「神は死んだ!!」「わたしは正義を発明した(科学者とは言っていない)!!」
「正義とは一つではない――。世の中にはいくつもの正義がある――」
などと(ニーチェ的ことを)嘯く謎の大富豪。
体型は太っていて頭頂部がでっぱりサングラスをかけている。
道楽(怒りや遊び)からザ・ムーンを建造し、
自分は汚れているからと純粋な心を持っているサンスウ達に与える。
ザ・ムーンを押し付けて、糞虫に少年達を守るように命じるだけで、
あとは食事会で話を聞くくらいで放任している。
ザ・ムーンが街中に現われても、それほど騒ぎにならないのは
魔魔男爵と政府の間で話がついているからか?
水爆が発射されようが、友人の春秋伯爵が東京を破壊しようが、
ケンネル星人により地球がカビで絶滅しようが、魔魔男爵は何もしない。
木の国屋商衛門を表(政治・経済的に地位を落とす)や
裏(糞虫を使って暗殺とか)から潰せばいいのに。

糞虫:
人間でもサルでもなく、糞――この世で一番きたないもの。
と自称する忍者のようなバケモノ。
魔魔男爵から少年達を守るように命じられていて、
サンスウ達の身に危険が迫ると現われ敵と戦う。
絶対服従の魔魔男爵以外とは会話せず、
「ピルルル……」と虫の鳴き声のような音を発するのみ。
カビを発生させる機械(マシーン)を止めようとする時など、
なぜか肝心な場面には現われない。

ザ・ムーン:
魔魔男爵が当時のアメリカの年間宇宙研究費と同じ二兆五千億(円?)で作らせたロボット?
頭頂部と耳部分から尖った角が生えている。
胸部は巨大な三日月で、満月と重なることにより光線を発射する。
主な行動は「ムーン ムーン ムーン ムーン……」という泣き声と
目から涙(オイル)を流すこと。
九人の少年少女達の脳波が揃うと自動的に動くが、
一人でも欠けたり、遠くて脳波が届かなかったりすると動かない。
(遠くにいる春秋伯爵一人の脳波で動いたりするので設定はいい加減)
般若心経を唱えることにより精神動力(サイコキネス)で空中に浮く。
不安な国民大衆が力にすがる大衆の神(大仏)がザ・ムーン。

未来さま:
ビッグ魔法団や連合正義軍を裏で操る冷酷な人間。
煙管でタバコを吸う。
未来さまは正義のため、
(世の中を良くしなければいけない責任があり、全てに優れている人間である)
自分を生かすために百人殺しても世の中のためになるという、
オウム真理教のポアみたいな思想の持ち主。
水爆を落とすのに失敗後、自決をするわけでもなく、
後の話に登場するわけでもなく、そのままフェードアウト。

流先輩:
サンスウの剣道の先輩。
頭もスタイルも良くスポーツは万能で、おまけにお金持ちのぼっちゃんだが、
実は連合正義軍の一員(同志)。
水爆のスイッチが入ったのを確認して自刃(腹を切る)する。
三島由紀夫がモデル?

連合正義軍:
デロリンマン』のオロカメンの格好をし、マシーン(バイク)に乗って現われる。
極右や極左のような極端な思想集団で、未来さまを偉大なる指導者と仰ぎ、
自分達の正義のためなら多少の犠牲(殺害)は厭わないという考え。
コピーしたイラストを切り張りしたみたいに大量にいる。
「オロカモノメ」が口癖。

巨大な猿(オラウータン)のサイボーグ:
未来さまの命を受け十二年間総額三十億もの研究費で作られた
サルの脳と細胞を使ったサイボーグ。
ザ・ムーンは二兆五千億円かかってるんで勝負にならないんじゃ……。

踊 次郎:
五寸釘を打つ不気味な転校生。

春秋伯爵:
ユートピアを作るため鉄人間やファーブルを操る老人。
催眠術で鉄人間を操り、ザ・ムーンも春秋伯爵一人の脳波で動かせる強敵だが、
未来さまや流先輩(連合正義軍)のような世の中の正義のための行動とかの思想はなく、
裸の美女達に囲まれて余生を送りたいという個人の欲求に正直な寂しいエロ爺。

鉄人間:
鉄の甲冑のような外見で、
中身は人間(主に老人)と寄せ集めの機械の二種類がある。
「ワタシノユウトビア……」が口癖。

ファーブル:
小さい顔部分は単眼で曲がった一角が生えていて、胸部は巨大な尻の様で、
腕は鞭の様な触手という、ロボットのデザイン史上最悪といえる奇怪さ。
どこで生産されているのかわからないけど大量にいる。
春秋伯爵はユートピアよりファーブルを作るのに金をつぎ込んだんじゃ……。

ケンネル星人:
犬のような外見をしているが前足は人間の手と同じ。
地球はケンネル星より二百年以上遅れているらしい。
(二百年なら、けっこう差がないように思えるけど……)
同じ地球で言葉も生活も思想も違うそれぞれの国が戦争していることが理解出来ず、
地球の代表者がわからず、なぜか(漫画だから)日本に上陸の許可を求める。

木の国屋 商衛門:
日本一の商人。
日本列島株式会社の社長(日本の指導者)になるため黒龍号を使い日本を破壊しようとする。
未来さまやビッグ魔法団(連合正義軍)の残党とかが
天誅を下せば(地獄船にすれば)いいのに……。

黒龍号:
木の国屋がケンネル星人から手に入れた怪物。
頭部は巨大な黒い円盤で、そこからクリスタル?の体が生えている。

ポパイ:
顔がポパイに似ている新聞記者。

紅燕:
白黒だからわからないけど、きっと紅色のマスクと装束の使い手。
糞虫と互角に渡り合う。

 

巨大ロボ同士の戦いというより、人間同士の戦いが多いので、
巨体で滅多に動けないザ・ムーンより糞虫の方が役に立つ。
ザ・ムーン一体を作るより、糞虫を増やして軍団にした方がいいんじゃ……。うそ
ザ・ムーンは『バビル2世』でいうポセイドンで、
糞虫はロデムって感じかな。

極めて個性的なキャラクター達が登場するんですが、
ジョージ秋山は人物のキャラデザ(外見)は面白いんですが、
ロボットなどのキャラデザの才能(センス)は壊滅的に酷いと思う。

話の展開がいい加減というか、
事件の発端での出来事(敵や謎)を完全に解決する前に、
新しい出来事(敵や謎)が次々に出てくるんで、
発端からは思いもよらない最後になり、
色々な事柄が未解決だったり説明されないまま突然終わるんで
なんかモヤモヤするんすが、強引な終わり方に逆に納得しちゃう説得力がある……のか?
少年漫画の連載では、キャラクターや武器や技などの強さのインフレがよく起こるんすが、
ジョージ秋山の漫画は話の展開のインフレというか、次々と衝撃的な出来事が起こり、
最後は哲学的・宗教的な感じになり、お茶を濁して終わりみたいな。


鬼頭莫宏の『ぼくらの』の元ネタ。